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「 食害誘導性揮発性物質の放出を制御する植物香り輸送因子の単離 」

上村卓矢

害虫による食害を受けた植物は、細胞内のシグナル伝達経路を活性化し、多様なBVOCを大気中に放出します。これらのBVOCは害虫の天敵生物の誘引や、近隣未被害植物へのアラーム(植物間コミュニケーション)といった、植物が周辺生物と相互作用するための情報伝達物質として機能します。これまでに食害誘導性BVOCの細胞内における合成機構が調べられてきましたが、どのようにBVOCが細胞外へと運搬され、大気中へと放出されるのかという輸送機構については明らかにされていません。本研究では、トマトと広食性農業害虫であるハスモンヨトウを用いて、食害誘導性BVOCの能動的な細胞外放出を担う輸送因子を単離し、周辺生物とのコミュニケーションを介した森林生態系構築プロセスを分子レベルで明らかにすることを目指します。

上村 卓矢

(東京理科大学・助教)

「 温度変動下での樹木の揮発性テルペン放散制御メカニズムの解明 」

大西利幸

植物は,イソプレンやモノテルペンなどの揮発性テルペンを大気中に放散します。揮発性テルペンは,オゾン濃度の増加やメタンの大気寿命を延ばすため温室効果を促進して,気温上昇の一因です。森林生態圏には,環境変動に伴い,揮発性テルペンの放散量を増加させる樹木があります。放散量増加→気温上昇→放散量増加→気温上昇の悪循環を断ち切るためには,樹木における揮発性テルペンの放散制御の仕組みを分子レベルで理解し,揮発性テルペン放散量を減らす施策が必要です。しかし,植物細胞から揮発性テルペンが大気中に放散される分子メカニズムの詳細な理解には至っていません。そこで,本研究課題は,環境変動に伴う揮発性テルペンの放散制御メカニズムを分子レベル (生物有機化学的精密度) で解明することを目的とします。

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大西 利幸

(静岡大学グリーン科学技術研究所・教授)

葉圏微生物共生系インターフェースにおけるC1-BVOC生成と大気への放出機構

由里本博也

植物起源BVOCの主要成分であるメタンやメタノールなどのC1化合物(C1-BVOC)を利用するC1微生物は、植物葉圏に優占的に棲息し、C1-BVOCを代謝するだけでなくその生成にも影響を与え、地球規模での炭素循環において重要な役割を果たしています。これまで葉圏C1微生物が植物からのC1-BVOCの放出に及ぼす影響や気候変動への影響については、厳密に評価されてきませんでした。本研究では、葉圏C1微生物と植物のインターフェースにおける植物によるC1-BVOCの生成、C1微生物による代謝、大気への放出について、そのメカニズムを葉圏C1微生物と植物との生物間相互作用の観点から明らかにします。

由里本 博也

(京都大学大学院農学研究科・准教授)

BVOCに応答した根粒共生抑制分子機構

西田帆那

植物はBVOCを介して他の植物と相互作用することが知られています。植物は微生物とも相互作用し、窒素固定細菌である根粒菌とマメ科植物の共生はその代表的な現象です。BVOCを介した植物間コミュニケーションが植物と土壌微生物の相互作用にも影響を与えることが報告されていますが、その制御機構はよく分かっていません。本研究では、損傷したセイタカアワダチソウが放出するBVOCがダイズの根粒共生を抑制する現象に着目し、BVOC暴露下での根粒共生の連続的かつ詳細な観察とトランスクリプトーム解析によるBVOC抑制制御に関連する遺伝子群の同定から、BVOCに応答した根粒共生抑制の分子制御メカニズムの解明を目指します。

西田 帆那

(農研機構・研究員)

「 植物生態電顕イメージング: BVOCを捉える 」

豊岡公徳

私たちは、最新の顕微鏡技術を駆使して、BVOCを放出する根源となる構造物の超微細構造を明らかにします。具体的には、「BVOCがどこに蓄えられ、どのような構造体からどのように放出されるのか?」や「植物と周辺の生物の相互作用はどのようなものか?」に焦点を当てます。新たな技術として、野外の植物体を、土を含めて丸ごと固定・包埋した樹脂ブロックを作製し、バンドソーを用いて切断後、研磨したその断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察する「樹脂ブロック断面SEM法」を開発しました。この方法を改良し、葉圏・根圏の微細構造解析に応用することで、植物生態のBVOCの放出前の姿を捉えます。

豊岡 公徳

(理化学研究 環境資源科学研究センター・
上級技師)

夜明けの低温シグナルを起点とした開花・代謝フェノロジーを支配する分子基盤

久保田茜

開花は栄養から生殖成長への移行であり、FT遺伝子が生産する花成ホルモンによって誘導されます。従来の開花モデルでは、春に日長が長くなると夕方に一度だけFT遺伝子が活性化され、開花が誘導されると考えられていました。しかし、野外では、日長や平均温度が同じでも、FT遺伝子は朝と夕方の2回活性化され、開花が早期化することがわかりました。さらに、光の波長や特定の時間帯の温度が開花応答の違いを生むことを見出し、これを利用して野外の開花応答を実験室で再現しました。本研究では1日の温度変動のうち特に夜明け近くの低温に着目し、低温が開花をはじめとする季節応答をどのように制御するかを明らかにします。

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久保田 茜

(奈良先端科学技術大学院大学・助教)

病原菌感染が誘導する植物BVOCとその昆虫誘引効果 

多田安臣

植物は寄生菌やウイルスに感染すると、植物ホルモンであるサリチル酸(SA)を合成し、SA応答性免疫を誘導することで寄生関係の樹立を抑止します。私たちは、寄生菌に感染した植物がBVOCを放出することで植食性昆虫を誘引し、同時に感染部位におけるジャスモン酸(JA)誘導性の虫害抵抗性を抑制し、昆虫に感染葉を摂食除去させることを明らかにしました。本研究では、植物・病原菌・昆虫の三者間相互作用におけるBVOCの合成制御機構とその作用を明らかにし、さらに多様な植物種における誘引物質の保存性と、それらの自然環境下における機能の解明を目指します。

多田 安臣

(名古屋大学 遺伝子実験施設・教授)

冬季に常緑針葉樹の光合成が停止する期間を決める要因を解明する 

種子田春彦

高緯度や高標高に広がる寒冷な環境には常緑針葉樹の優占する森林が広がり、CO2の巨大なシンクとして機能しています。常緑針葉樹には分布標高によって冬に光合成を続けるが活性が低下する種や、長期間、光合成を完全に停止させる種がいます。私たちは低標高に分布するモミと高標高に分布するウラジロモミを対象にして、光合成速度やそれに関連する微量活性物質や色素の量、その物質の生合成を制御する遺伝子の発現の季節変化を測定し、秋から冬に光合成が低下したり停止するタイミングと春に再開するタイミング (光合成のフェノロジー) がどのように決まるか、そして冬も光合成を続ける種との比較から、冬に光合成を停止させる性質が有利になる限界の気象条件を明らかにすることを目指します。

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種子田 春彦

(東京大学大学院理学系研究科附属植物園日光分園・准教授)

地下の菌類による電気的情報伝達とBVOC放出 

深澤遊

菌類は植物の根と菌根共生を形成し、多数の植物個体を菌糸体で連結することにより、樹木間の物質や情報のやりとりを仲介している可能性が指摘されています。また、落葉や枯死木をはじめとした植物遺体の主要な分解者であり、分解に必要な水分や養分、また分解により得た炭素を菌糸体内部で転流することにより、森林土壌中での物質の移動や循環に中心的な役割を果たしています。菌根菌の菌糸を介した樹木間の物質輸送や情報伝達については、wood wide webなどとも呼ばれ社会的にも注目されていますが、科学的根拠が乏しいままイメージが先行している状況です。本研究では、野外の森林土壌中における菌類の菌糸体を通じた電気的シグナル伝達を実際に測定することを目指します。

深澤 遊

(東北大学大学院農学研究科森林生態学分野・
准教授)

植物-気候フィードバックにおける概日時計の役割 

村中智明

地球の自転に起因する24時間周期の昼夜サイクルは、ほぼ全ての生物に影響を及ぼします。この周期的な環境変化に適応するため、植物は体内に約24時間周期の遺伝子発現リズムを生み出す概日時計を持っています。BVOCの放出口である気孔の開閉をはじめ、成長や花成など、様々な生理現象が概日時計に制御されます。興味深いことに、概日時計のリズムは、冬季の低温で停止することが複数の植物種で報告されています。本研究では、様々な樹種を対象に、どの温度でリズムが停止するかを分子実験により明らかとします。また、リズム停止の前後でBVOC放出などの生理現象が変化するかを解析します。一連の研究により、植物-気候フィードバックにおいて概日時計の役割を明確化します。

村中 智明

(名古屋大学大学院生命農学研究科・助教)

ウキクサ自然変異集団を用いた短日性休眠感受性制御による寒冷地適応の多様性解析

伊藤照悟

植物において、生育に不適な環境下での究極的な生存戦略は、有性生殖による花成及び種子休眠と、樹木など多年生植物で主に見られるストレス耐性を持った特殊な幹細胞の器官の休眠(休眠越冬芽)があげられます。この応答は概日時計機構による季節予測のもと、適切なタイミングで発動することで生存を可能にしています。サトイモ科の水生植物であるウキクサ植物は全球的に分布し、種内の多様性も大きいことが知られています。私達は、特にキタグニコウキクサの自然変異集団の短日感受性の多様性を利用することで、季節依存性の成長休止と休眠芽発達に関与する遺伝子群を同定します。同時に、ウキクサ植物が個体群として迅速に一斉休眠することを可能にすると考えられる分泌性の休眠誘導物質の同定、様々な生育温度において休眠応答の感受性(限界日長)に変化を生み出す分子メカニズムの解明を目指します。

伊藤 照悟

(京都大学大学院 理学研究科 生物科学専攻
植物学教室 形態統御学分科・助教)

BVOCとバイオエアロゾルの相互作用の実験的解明 

江波進一

大気中に浮遊する生物起源のバイオエアロゾルは、近年、その重要性が認識されるようになってきた。バイオエアロゾルには、アミノ酸やタンパク質、脂質などの生物由来分子が含まれる点に特徴がある。一方で、植物から放出される揮発性有機化合物(BVOC)は、大気中で気相反応を起こすか、既存のエアロゾル粒子に取り込まれることで、2次生成有機エアロゾル(SOA)となり、地球の気候変動と大気汚染の両方に影響を与えている。

本提案研究では、申請者が独自に開発した気液界面反応測定装置を用いて、気体BVOCと液体バイオエアロゾルの分子レベルでの相互作用を世界で初めて実験的に解明する。本提案研究が完成すると、これまでの実験ではアクセスできなかった、BVOCとバイオエアロゾルの相互作用とその大気への影響が初めて解明され、多くの成果が見込まれる。

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江波 進一

(筑波大学 数理物質系化学域・教授)

新型イソプレン計とフラックス観測網を用いたイソプレン放出量推定の高精度化 

深山貴文

森林からはイソプレンという揮発性有機化合物が大量に放出されています。しかし、従来の測器では野外連続観測が困難だったため、その放出の変動特性が十分に解明されていません。そこで本研究では、加熱脱着化学発光法式による新型イソプレン計を用いることで、その野外連続観測を実施します。そしてこの観測手法をタワーフラックス観測ネットワークの中に組み込み、気象データや色情報、イソプレン放出量等との関係を解析することで、より実態に近い高精度のイソプレン放出モデルを開発することを目指します。特に、日本のイソプレンの主要な放出源であるコナラについて、病虫害影響、水分環境を中心とした変動要因の解析を行っていきます。

深山 貴文

(森林総合研究所・主任研究員)

VOCの新たな生成経路-大気VOCを起源とする植物体内変換物質の放出- 

谷晃

植物の葉から吸収されたVOCが、代謝変換によって異なる物質として大気へ放出されることを、最近になって申請者や他国の研究者が明らかにしてきた。これまで明らかにしてきた葉内変換による放出として、フェノール→アニソール、メチルビニルケトン→メチルエチルケトン→2-ブタノール、などが挙げられる。これらの代謝変換については、特定の条件下、1,2種の植物種でしか確認されていない。本研究では、代謝変換の有無や変換率の植物種間差や曝露濃度およびフェノロジーの影響を明らかにする。また、新たな大気VOC起源の変換物質について、曝露物質の候補をあげ実験により探索する。以上の結果を整理して、大気中のVOCを起源とする、植物体内で変換され放出される物質について、VOCの新たな生成経路としてデータベースを作成する。

谷 晃

(静岡県立大学食品栄養科学部環境生命科学科・
教授)

多様な樹木の光阻害耐性と植物起源VOC(BVOC)放出調節機構の解明 

辻祥子

光は植物の光合成に不可欠ですが、過剰な光は「光阻害」として植物に顕著な悪影響を及ぼします。酸素発生型光合成の光化学系Ⅱ(PSⅡ)では、光損傷が常に迅速に修復され機能が維持されていますが、強光下では損傷が修復を上回り光阻害が起こります。これまでに私たちは、樹木の自然変動光下における光阻害の実態把握を行い、光阻害の樹種間差を明らかにしています。さらに現在、CO2同化量や葉の形態・窒素量の解析から、PSⅡの損傷と修復の種間差と光合成能力の関係を評価しています。今後は、光阻害の樹種間差を生む詳しいメカニズムに迫りたいと考えています。そこで、強光下での樹木の光阻害に対するBVOC放出の防御機構としての役割に着目しました。まずは、様々な樹木の野外変動光下での光阻害耐性とBVOC放出量の関係を季節性も含めて測定します。光強度の違う植生での、より正確な炭素収支蓄積予測の知見となるような、BVOCと光阻害の関係解明を目指します。

辻 祥子

(京都大学農学研究科応用生命科学専攻
植物栄養学研究室・学振特別研究員)

森林土壌中で生成するモノテルペンが炭素・窒素循環プロセスにおよぼす影響 

森下智陽

森林生態系で主にみられるBVOCとしてイソプレンやモノテルペンが知られています。森林土壌中には大気よりもはるかに高濃度のモノテルペンが蓄積していて、樹種によって土壌中のモノテルペン濃度やその構成が異なることがわかってきました。しかし、これらモノテルペンについて土壌から大気への放出量や物質循環におよぼす影響の解明には至っていません。そこで本課題では、主に安比高原(岩手県八幡平市)と森吉高原(秋田県北秋田市)のブナ林における現地観測と室内実験によって、森林土壌からのモノテルペン放出量の樹種による違い、さらにモノテルペン類が森林土壌中における温室効果ガスの生成・消費におよぼす影響を評価することで、BVOC動態における土壌生態系の役割を明らかにします。

森下 智陽

(森林総合研究所(東北)・主任研究員)

「 高解像度領域化学輸送モデルによるBVOC放出と対流圏オゾン影響の相互作用解明 

辰巳賢一

近年、地球温暖化により気候や森林生態系に異変が生じている。森林は気温が上昇すると自己防衛ため、周辺の気温を下げる効果がある植物起源揮発性有機物(BVOCs)を放出する。しかし気候変動予測シミュレーションモデルではBVOCsと大気観測値に大きな乖離がある。その原因の一つとして、申請者は、BVOCsから光化学酸化反応によって生成した二次有機生成エアロゾル(BSOA)の沈着場が光分解の反応場となりイソプレンが発生しているのではないかと仮説がある。沈着するBSOAを「植物の垢」と名付け、光分解によって発生するイソプレンの生成量を解明する。そのため本研究では「太陽の1日の動きや季節を再現した地表面からの放出されるイソプレンの放出速度を測定する装置開発」と「光分解によって生成するイソプレンの前駆体の解明」を行う。
 

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島田 幸治郎

(琉球大学・助教)

「 高解像度領域化学輸送モデルによるBVOC放出と対流圏オゾン影響の相互作用解明 

辰巳賢一

BVOC放出量の精緻な推計は,その対流圏オゾン(O3)への影響や植物・気象との相互作用を定量的に評価する上で必要不可欠である.また,BVOC放出量は気象条件や樹種・作物により異なるため,O3やメタンの空間分布や変動の再現・予測に利用される大気化学輸送モデルの計算結果に不確実性をもたらす大きな要因となる.本研究では,複数のBVOCインベントリ,高解像度領域大気化学輸送モデル,および作物生長モデルを統合的に活用し,BVOC放出とその大気中での挙動がO3に与える影響およびその相互作用を広域かつ高精度で解明することを目的とする.そのため,1) BVOCインベントリの精緻化,2)モデル計算,3) モデル間のBVOC,O3の再現精度評価,4) BVOCとO3の相互作用の定量的評価を実施する.

辰己 賢一

(名古屋市立大学・データサイエンス学部・教授)

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